価格戦略2

価格戦略2

価格設定に影響を与える要因

 

これまで価格の上限と下限を決める要因について見てきた。次にその幅の中で価格設定に影響を与える要因について解説する。

 

競争環境

 

企業が自社製品の価格を考える上で、最も影響を受ける要因の一つが競争環境である。例えば、砂糖やガソリンなどのように実質的に差別化しにくい製品では、市場価格を上回る価格をつければ売上は急激に落ちるだろうし、下回る価格をつければ売上アップにつながるだろう。逆にいえば、ある企業が競争環境に左右されずに価格設定をしたければ、製品の差別化しなくてはならない、ということだ。機能、デザイン、ブランド・イメージ、サービスなどが競合製品と明確に差別化されており、買い手が自社ブランドを他社ブランドよりも好むなら、その程度に応じて競合よりも高い価格を提示できる。

業界が寡占的になるほど、プライスリーダー(業界全体の価格構造に大きく影響を与える業界リーダー)が存在しやすくなる。プライスリーダーは通常、最も大きなシェアや強力な流通チャネルを持ち、製品開発の先頭に立ち、業界を牽引していく。また、プライスリーダーは、低価格を打ち出してくる小さな競合に対して、あえて価格で対抗しないことが多い。シェアを維持するために価格を下げて利益を犠牲にするよりも、多少のシェアは譲っても価格を維持した方が得策だと判断するからである。最も、その場合でも適切に状況判断を行わないと、旅行業界で価格格安航空券販売の HIS が台頭したように、気づいたら小さな強豪が巨人になっていた、ということになりかねない。また業界内の各企業の価格設定は、他社の価格戦略の影響を大きく受け、かなりの度合いで同じような動き方をするものだ。従って価格設定は、コストの場合と同様、現在と将来の両方の競争を見越して検討していかなくてはならない。

 

需給関係

 

需要と供給の関係も、価格設定に大きな影響を与える。特に、差別化の難しいコモディティ(日用品)では、古典的な需要供給曲線で価格帯がある程度決まる場合が多い。

独占的な製品を持つ売り手は、供給量をコントロールすることで価格を維持することも可能であるが、こうした手法は顧客からの反感を買い、将来競合が出てきた時に自社の弱みになる恐れがある。マーケティング担当者には、顧客との長期的関係を考慮して、高い価格設定が可能な場合でも自制するといった総合的判断が求められる。

 

売り手が買い手の交渉力

 

特に生産財においては、顧客との交渉力が価格設定を大きく左右する。そして顧客との交渉力は、需要と供給の関係、製品の差別化の度合い、売り手と買い手の相互依存度、スイッチングコストなどの要因によって規定される。ここでは、売り手と買い手の相互依存度とスイッチングコストについてみていこう。

買い手の購入額や量が売り手側の売上高と出荷量の中で大きな比率を占め、かつほかにも購入先が選べる場合、買い手は価格交渉に強い立場で臨むことができる。大手メーカー(買い手)とその下請け業者(売り手)との関係は、多くの場合こうした構図になっている。また、販売力のある小売チェーンは、それを武器に卸屋メーカーに対して強気の価格交渉を行うことができる。

逆に、売り手に大きく依存しており、売り手の言い値がそのまま通ってしまう場合もある。例えば、売り手が独占的な先端技術を持っていたり、特許に守られて独占生産を行っていたりする場合がそうだ。

さらにスイッチングコストも、売り手と買い手の交渉力を考える上で重要な要素である。これは買い手あるいは売り手が相手を変更する際に発生するコストである。スイッチングコストは、互いの関係が長期間に及び、かつその関係が業務上重要になるにつれて上昇する。例えば一度ある会社にシステム構築を依頼したならば、多少価格が高くても、メンテナンスも同じ会社に依頼することが多い。システムを熟知している会社であれば余計な説明の手間がかからないなど、様々な点で便利であるため、表面上の価格の安さよりもトータルのコストで評価しているからである。

 

価格設定手法

 

世の中にある製品やサービスの価格は、実際にどのように設定されているのだろうか。価格設定方法は極論すれば、売り手と買い手の間の交渉の数だけ存在する。従って、全てを網羅することはできない。ここでは、価格設定に大きく影響する三つの要因、「製造コスト(原価志向)」、「カスタマーバリュー(需要思考)」、「競争環境(競争思考)」に基づく手法について解説していこう。

 

原価志向の価格設定

 

原価志向の価格設定は、適切な利益を得て、かつ製造コストを増大させるリスクを最小化することを重視する。なお、この方法には、価格設定が簡単という利点がある半面、顧客が払っても良いと考えている価格よりも低い価格を提示してしまう(すなわち、得られるはずの利益を逃してしまう)リスクがある。

 

コストプラス価格設定

 

実際にかかったコストに、利益を上乗せして価格を算出する方法である。売買契約は成立しているものの、事前にコストがはっきりしない場合に用いられる。建設業界やシステム開発業界などで適用される。ただしこの方法には、売り手側にコストダウンの意識が働かないといった問題がある。売り手が買い手に対して強い交渉力を持っているときは、コスト要素について、かかったぶんだけ余計に負担することを取り決める場合もある。従って買い手としては、支払額の上限を決めるなど、ある程度の歯止めを設けておくことが必要である。

 

マークアップ価格設定

 

仕入原価に一定のマークアップ(上乗せ)を行うもので、流通業では一般的に用いられている手法である。またマークアップの度合いは、その製品が薄利多売型のコモディティであるか、あるいは回転率の低い高級品であるか、という点に大きく左右される。通常、食品のようなコモディティは利幅が薄く、逆に宝飾品のような高級品は50%以上の利幅が設定されることが多い。

 

ターゲット価格設定

 

想定される事業規模をもとに、一定の利益が確保できるように価格設定を行う手法である。製造設備の稼働率が問題となる化学品や自動車などの業界で採用されている。

 

需要志向の価格設定

 

顧客が認識する価値に焦点を合わせて、価格を設定する。カスタマーバリューは上限価格となるので、これを適切に行えば企業にとって最も利益が上がることになる。

 

知覚価値価格設定

 

マーケティングリサーチなどにより「売れる価格帯」を発見し原価がそれよりも高い場合には、コスト削減や製品仕様の見直しなどを行い、その価格帯に原価を近づける手法である。製品が差別化されており、激しい競争環境にない場合は、この「売れる価格帯」を発見すること、さらには顧客に「適切な価格である」と認識させることが重要となる。

 

需要価格設定

 

市場セグメントごとに価格を変化させる方法で、顧客層(学割など)、時間帯、場所(グリーン車など)によって異なった価格が提示される。OEM(委託先のブランド名で生産すること)供給と一般ルートとでは、中身は同じ製品であっても卸売価格が異なってくる。またソフトウェアの中には、ベーシック版は無料、プロ版は有料というように、ターゲット別に思い切った戦略を取っている商品もある。これは99パーセントの人に無料とすることで利用や普及を促進する一方で、1パーセントのプロ向けで儲けるという構造をとっている。

 

競争志向の価格設定

 

差別化されていない製品で、ある程度の競争がある場合には、競合製品の価格を踏まえて価格を設定する方法が用いられる。ただしこのやり方は価格競争になりやすく、しばしば売り手同士に疲労感を残すだけという結果になる。ガソリンスタンドの価格競争などが典型例である。マーケティング担当者は「価格だけの競争」になる前に、何らかの差別化を図るための対策を練らなくてはならない。

 

入札価格

 

価格が売り手と買い手との交渉で決められない場合や、純粋に市場メカニズムによって決まらない場合は、入札によって価格が決定される。買い手は、入札によって、一番低い価格を提供する売り手を探すことができる。(最も公共団体などでは、なまじ入札を採用したがために、能力的に不十分な業者を採用せざるを得なくなるという弊害も報告されている。

 

実勢価格

 

競合の価格を十分に考慮した上で、価格水準を決定する方法である。多くの業界でこの手法が用いられている。金属やプラスチックなどプライスリーダーがいる業界では、プライスリーダーが2番手以下の競争状況を踏まえて価格を決め、他の企業はその価格を基準に自社の価格を設定する。

プライスリーダーが不在で、競合が互いの価格を意識し、牽制し合いながら価格を決定している業界もある。これは一般に、多数の小規模企業からなる業界でよく見られるが、業界でも少数の大規模企業によって激しい価格競争が行われることがある。固定電話業界を例にとると、後発参入した日本テレコム(現・ソフトバンクテレコム)は、常に最安値となるよう値下げを続けると発表し、徹底的に価格競争を行うことを宣言した。KDDI が追随したことで価格競争が激しさを増し、かつてプライスリーダーであった NTT はその圧倒的な優位性を失った。その後、NTT も値下げ競争への参戦を決意し、プライスリーダー不在の激烈な価格競争へと突入した。