価格戦略3

価格戦略3

新製品の価格設定

マーケティング担当者は、 製品ライフサイクルに応じて適切な価格設定を行わなくてはならない。なかでも導入期の価格戦略は、その後の製品の普及度を占う意味でも重要である。

新製品の価格戦略として代表的なものに市場シェアを獲得するために価格設定をコスト以下あるいはコストとほとんど同じにすると言う ペネトレーションプライシング (市場浸透価格設定)、そして製品ライフサイクルの初期段階で短期に資金を回収するため価格を高く設定するスキミングプライシング(上澄吸収価格設定)がある。両戦略の効果、リスクなどを十分認識した上で適切な戦略を選ばなくてはならない。

 

ペネトレーションプライシング(市場浸透価格設定)

 

この手法は、販売量が上がるにつれて単位コストは顕著に下がるという過程に基づいている。経験を積むことによって、生産プロセスはより効率的になり従業員は熟練し、原材料や部品の大量購入が行われるようになることから、変動費が低減する(経験効果)。同時に、生産量増大に伴って固定費が分散されるようになることから、固定費も低減していく(規模の経済)。

かつて日本メーカーが海外に進出した時には、こうした原価低減を見越したペネトレーションプライシングが採用された。この戦略の成功のカギは、将来の需要を正確に見積もること、そして競合他社が追随する機会を取り除くことにある。

 

ペネトレーションプライシングの特徴

 

前提条件

・広い潜在市場が存在する

・価格弾力性が大きく、影響が大きい

・経験効果により投資の回収ができる

 

期待効果

・早い時期に高い市場シェアを獲得できる

・低マージンのため競合他社の参入意欲を減退させる

・製品ブランドを広く消費者に認知させることができる

・莫大な利益を享受できる可能性を持つ

 

リスク

・期待通りに原価が下がるとは限らない

・設備投資や資金繰りにおいてリスクが大きい

 

スキミングプライシング(上澄吸収価格設定)

 

これは、初期に高価格を設定することで、早期の資金回収を図るものである。巨額の投資が必要な半導体製造などでこの手法が用いられており、製品開発を最も早く行った企業が、2番手以下の企業に対して収益面で大きく優位に立てる。

 

スキミングプライシングの特徴

 

前提条件

・製品の差別化の大きさから、市場での競争の心配が少ない

・価格弾力性が小さく、需要が価格の高低に左右されない

 

期待効果

・プレステージ性の高いブランドイメージを確立できる

・市場の良質な顧客層を獲得でき高い利潤が得られる

・価格弾力性の小さい市場を開拓できる

 

リスク

・競合の参入を許してしまう

 

価格弾力性

価格弾力性とは、価格の変化率に対する需要の変化率の比である。

価格を変更してもほとんど需要に変化がないとき、価格弾力性が小さいと言う。通常、米や野菜など生活に不可欠かつ日常的な製品は価格弾力性が小さく、宝飾品など高価な贅沢品は価格弾力性が大きいと言われる。価格設定にあたって、価格弾力性を知ることは非常に重要である。

価格弾力性は顧客セグメントによって多様であり、同じ顧客セグメントであっても状況がことなれば同一ではない。例えば飛行機で移動する場合、プライベートとビジネスの旅行では、利用する座席も変わってくるだろう。価格弾力性は、スイッチングコストの有無にも影響される。顧客は製品にわずかな価格の違いしかないとすれば、新たな学習が必要になるような製品については不確実性を無視してまで新製品にスイッチしようとはしない。パソコンのソフトなどは、スイッチングコストが高いことで価格弾力性が小さくなっている典型例である。

 

成長期の価格設定

 

通常、成長期になると、価格は横ばいか低下傾向となる。なぜならば、生産・販売量が増え、規模の経済や経験効果によって原価が低減されると共に、競争激化で買い手の交渉力が高まるからである。企業としては、成長を維持するために、価格に敏感な顧客層も市場に引き込むべく、適切なタイミングでの価格引き下げや顧客に合わせたオプションの拡充を検討しなければならない。

例えば、液晶テレビやプラズマテレビなどの薄型テレビは、地上デジタル放送の普及とともに買い替えが進む一方で、年に2~3割のペースで低価格化が進んだ。32インチの普及型液晶テレビは2005年に普及の目安と言われる1インチ当たり1万円程度に達し、32インチで10万円前後の台湾製の格安液晶テレビが量販店に出回った。

2007~2008年には松下電器産業(現パナソニック)、シャープ、ソニーなど大手メーカー製品でも1日あたり2500円~5000円に下がった。

成長期を終え成熟期を迎えると、市場成長率は鈍化し、限られたパイの奪い合いが始まる。差別化は困難になり、過剰生産能力と相まって競争は価格を中心に展開される。普及率が高まり成熟期に差し掛かった携帯電話は、端末価格、基本料、通話料、割引期間など多岐にわたって激しい競争が続いており、最も安い料金の情報を提供すること自体がビジネスになるなど複雑化している。

 

効果的な価格設定のために

収益性を左右する価格設定は、事業戦略の要である。効果的な価格設定を行うためには、その目的を正しく認識することが必要不可欠である。価格設定の目的は、ある時は市場シェアを獲得することかもしれないし、またある時は競合他社の規制を削ぎ、新規参入者の動きを制することかもしれない。どのような目的を置くにせよ、その設定と市場導入後のモニタリングは慎重に行わなければならない。

価格設定のプロセスでは、テニスなどのゲームと同様、1つひとつの意思決定は一連のプレー中におけるひとつの動きに過ぎない。自社の設定した価格に対し、競合他社は獲得のためにさらに低い価格を設定してくるかもしれない。それに場あたり的に対応するのではなく、自社のマーケティング目標を果たすためには、このような価格設定にすべきか適切な判断が求められる。

価格変更に際して、マーケティング担当者は新しい価格を顧客に受け入れてもらえるよう努力しなくてはならない。価格の引き上げの際、企業は多くの場合、コストアップを転嫁したものだと説明する。しかしその変更が公正であると確信してもらえなければ、お客にそっぽを向かれてしまう。

値下げをする場合にも注意が必要だ。顧客は通常、値下げを歓迎するが、それによって品質やサービスの低下をまぬけば不満を募らせる。さらに、一度引き下げた価格を再び上げることは非常に難しく、顧客が納得するような適切な理由を示さなければ、顧客は離れていく恐れがある。頻繁に価格変更をすれば、お客は混乱し、製品に対する価値判断ができなくなってしまう。従って、マーケティング担当者は、価格変更による様々な影響を考慮した上で慎重に意思決定すると共に、顧客に対するコミュニケーションや価値の見せ方に細心の注意を払わなくてはならない。